はじめに
腕時計は、使用後に乾いたケア用クロスで拭くだけでも、その日の汚れを落とす効果があります。しかし、日常的にケアをしていても細部の汚れが気になり、自宅でクリーニング(洗浄)をしたいと思うことがあるかもしれません。
腕時計のクリーニングは基本的にプロに依頼することを推奨しますが、自宅で洗浄し、汚れを落とすことが可能か不可能か、といえば可能です。
ただし、数々の条件や注意点があります。
今回は、自宅で洗浄を行う場合の方法やタイミング、NG点・リスクも合わせて解説していきたいと思います。
洗浄ができる箇所
腕時計は、肌に直接触れるため汗や皮脂などの汚れが付きやすいです。そのまま放置してしまうと、さびや劣化、臭いの原因にもなります。
さらに、細部など汚れがたまることで、時計自体の動きが悪くなるという問題が起きる可能性もあります。
しかし、腕時計は精密機械のため、たとえ防水モデルだとしても、時計本体を水につけて洗うことは危険です。
時計内部にわずかな水分が入るだけで、さびの原因となり、劣化や、機械の故障につながってしまうからです。
ダイバーズウォッチでも、購入時の防水機能が永久に続くというわけではなく、外装パーツの劣化などで防水性能が低下する場合があります。
時計のバンドを、金属製はブレスレット、革製はベルトと呼びますが、洗浄ができるのは、本体から取りはずした「金属ブレスレット部分のみ」になります。
革ベルトが洗浄できないのは、水分に非常に弱く、変色などの原因となるためです。
洗浄するタイミング
金属ブレスレットの洗浄をするタイミングとして、次の2つの目安があります。
➀衣服や皮膚に黒い汚れが付いたとき
長期間の摩擦で部品と部品の間に隙間が生まれ、汗や金属粉、ホコリなどがたまる
➡そのまま放置していると、汗などにより汚れが溶け出す
➡片方(腕時計を付けた側)の袖口だけが汚れる、もしくは黒い汗・汚れが手首など皮膚に付く
②腕時計をつけている部分の皮膚に異常が出たとき
時計本体の裏側やバンドなどに汚れがたまる
➡皮膚の赤み・かゆみなどの症状が出る
※もし腕時計の汚れを落とした後も肌トラブルが続く場合、金属アレルギーの可能性もあります。皮 膚科への相談(金属アレルギー検査など)や、腕時計の材質をアレルギーが出にくいチタンに変えるなど対策をお考えください。
洗浄前の準備:<確認しておくこと>
セルフクリーニングは、ご自宅にあるもの・安価で手に入る材料で洗浄できます。
代表的なのが重曹を使った洗浄方法です。
まず洗浄前に、注意点を確認しておきましょう。
金属の種類
自分の腕時計の金属の種類は何か、調べておくことが重要です。
重曹を使った洗浄方法は手軽ですが、ブレスレットの金属の種類によっては向かない素材もあります。特に加工や塗装があるものは注意が必要です。洗浄前に、重曹を使用しても問題がない素材かどうか確認しましょう。
〈余りパーツでのお試し〉
腕時計の購入時にブレスレットのサイズ調整をした場合、取りはずしたパーツが手元に残っているかもしれません。
その後の交換などに使う予定がなく、不要であれば、余りパーツで試してみてもよいでしょう。特に問題なく洗浄ができることを確認したら、ブレスレット部分も同じ洗浄ができます。
洗浄前の準備:<工具での作業>
洗浄前に、時計本体(ケース)からバンドを分離させておきましょう。
時計本体とバンドのつなぎ目には、バネ棒という部品が使われています。
ケースからバンドを取りはずすには、「バネ棒はずし」という専用の工具を使用します。
専用工具「バネ棒はずし」

※(イメージ)バネ棒はずし(左)/バネ棒(右)
バネ棒はずしには、棒の両端にそれぞれ形状の違う先端が付いています。
「Y型」…片方がYの形で二股になっている
「I型」…もう一方はIの形で細長い棒になっている
バネ棒はずしで時計本体とバンドを分離させると、バンドに隠れたケースなど内側にたまった汚れをそうじすることができます。また、自分でのバンド交換も可能になります。
・バネ棒はずしの代わりに、ドライバーなど別の工具を使うと時計を傷付けてしまう可能性がありますので、避けた方がよいでしょう。
また、マグネット(磁石)工具は、磁気帯び(※1)のリスクがありますので使用はNGです。
(※1)磁気を帯びることにより時計の精度が狂うなど悪影響が出ること
バネ棒はずしの使い方

<参考:一般社団法人 日本時計協会> ※(2)ラグ側面に穴なしタイプ
バネ棒はずしはバンドの形状により使い方が異なります。
金属ブレスレットのラグには、(1)側面に穴があるタイプ(2)側面に穴がないタイプがあります。
ラグのタイプに合わせて、バネ棒はずしのY型とI型を使い分けます。
(1)ラグ側面に穴あり→I型を使用
(2)ラグ側面に穴なし→Y型を使用
ケースに傷がつかないか気になる方は、セロテープなどでラグ全体をマスキングして、覆うように保護しておきましょう。
(1)穴ありタイプのはずし方
①バネ棒はずしのI型を、ラグ側面の穴の中に入れます。
②バネ棒はずしを押し込み、片側をはずします。
③ずれないように、はずした状態をキープします。
④反対側の穴も同じように、I型で押してはずします。
(2)穴なしタイプのはずし方
①裏面のブレスレットの付け根部分に、バネ棒を引っ掛ける穴があります。
②付け根の穴にバネ棒はずしのY型を引っ掛けます。
③テコの原理を使ってバネ棒を押し下げ、縮めて片側をはずします。
④はずれた状態をキープしたまま、反対側もY型ではずします。
この時、バネ棒が弾んで飛び出してしまうことがあるのでご注意ください。
洗浄後の取り付け方
(1)穴あり(2)穴なしタイプともにI型を使用、取り付け方は同じです。
①バネ棒をブレスレットに装着した状態で、元の穴の付近に当てます。
②I型でバネ棒を押して、元の穴にひっかけます。
③反対側もI型で押して、取り付けます。
④バネ棒の先端が本体にきちんと入っているか引っ張って、はずれないかを確認します。
自宅でのクリーニング(洗浄方法)
それでは、取りはずした金属ブレスレットを重曹で洗浄する方法を解説します。
“ぬるま湯”と“重曹”が腕時計にたまった汚れを落としてくれる洗浄液となります。
●用意するもの
・ぬるま湯 ・重曹(掃除用)
・ブレスレットを入れる容器(水にしっかり浸せるだけの大きさのもの
・不要になった透明カップなどでも可)
重曹を使った洗浄方法
①容器にぬるま湯を入れ、重曹(スプーン1~2杯ほど)を入れてよくかき混ぜます。
・ぬるま湯の量は、金属ブレスレットが水にしっかり浸かる程度
②洗浄液ができたら、分離させた金属ブレスレットをその中に浸して放置(10〜15分ほど)しましょう。
③時間が経つと洗浄液の中に汚れが溶け出し、黒いものが浮いたり洗浄液の色が黒っぽくなったりします。
・汚れがたくさんたまっている場合は、さらにあと5~10分ほど置いて様子を見ましょう。
③時間が経つと洗浄液の中に汚れが溶け出し、黒いものが浮いたり洗浄液の色が黒っぽくなったりします。
・汚れがたくさんたまっている場合は、さらにあと5~10分ほど置いて様子を見ましょう。
④汚れが落ちたら金属ブレスレットを容器から取り出します。
⑤きれいな流水ですすぎます。
⑥最後に乾いたきれいな布で水気をよく拭き取り、しっかりと乾かします。
⑦水分が残っていないことを確認します。
⑧再びケースに金属ブレスレットを取り付けます。
自分で行う場合のリスク
洗浄のための道具は手軽に揃えられ、洗浄方法はそれほど難しくないかもしれません。
しかし、はじめに解説したように金属ブレスレット部分のみ可能とはいえ、ご自宅での洗浄はリスクが高く、あまりおすすめできません。
理由は次の2つです。
➀バネ棒はずしでの傷
基本的に交換が前提となっている革ベルトは、ベルト自体も柔らかく、一般の方でもバネ棒はずしでの着脱がしやすいです。
一方、金属ブレスレットは、基本構造は同じであることが多いですが、しっかりと固定されていることがほとんどで、革ベルトと比べると難しいです。
今回は穴あり・なしという2タイプの紹介でしたが、特殊な形状のケースなどもあり、難易度が高くなります。
金属ブレスレットの取りはずし・取り付けの際に、外装や本体に傷がついてしまうリスクがあるため、特に時計初心者の方は、バネ棒はずしの使用をはじめ、洗浄もプロに依頼した方が安心です。
②水分が残る
金属ブレスレットにとって「水分が残る」ことが大きな劣化の原因となります。
水分を残さないようにしたつもりでも、ブレスレットのコマの細かい隙間などに、水がまだついている場合も多く、水分が残るリスクは大きいです。
ブロアーで念入りに水滴を飛ばす、何枚もの乾いたタオルで優しく拭くなど、徹底的に水分をなくすことが求められます。
時計修理の場で、金属ブレスレット部分に限らず、
・水分が残っていた部分の金属がさびてしまう
・残っていた水分がケースに侵入してしまい、ムーブメント(内部機械)がさびてしまう
などの事例がみられることがあります。
プロの場合は、時計の形状や素材に合わせて適切な洗浄方法(超音波洗浄機などを使用)と、丁寧なケアを行います。
万が一、日常のアクシデントなどでも時計内部に水が入ってしまった場合は、すぐに店舗にご相談ください。
まとめ
今回は、ご自宅でのセルフクリーニングについて、金属ブレスレット部分のみ解説しました。
事前に時計の素材や性質を調べ、注意点をチェックし、道具の準備をし、洗浄後は水分をなくす徹底的なケアをするなど、トータルで考えると手間や時間がかかると感じる人もいるでしょう。
また、大切な時計ほどリスクが心配になるものです。その場合は、プロにお任せした方が安心だといえるかもしれません。
ご自宅で洗浄をする・プロに依頼する、どちらにしても、ご自分の時計のことを新たに知る・調べるひとつの機会になればと思います。
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