懐中時計から腕時計がメインになったのはなぜ?

時計豆知識
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はじめに

博物館などで見かけるレトロな時計と言えば、懐中時計が思い浮かびます。ポケットから取り出して、蓋をパカッと空けて時間を確認する動作はどことなく余裕があって優雅ですね。

たまに売られているのは見かけるけれど、現在主に使われているのは腕時計です。

かつて世界中で使われていた懐中時計から腕時計が主流になったのはなぜでしょうか?

そこには意外な歴史がありました。

今回は懐中時計から腕時計がメインになっていった理由をお話しします。

懐中時計から腕時計へ 始まりは「軍用時計」

19世紀の腕時計は女性用のアクセサリー的なブレスレット・ウォッチで、正確さより装飾性が高いものでした。
懐中時計はもっと正確に時間がわかるので、19世紀に主流だったのは懐中時計なのです。
では懐中時計から腕時計が実用品になり、量産されたのは、いつ、どこでしょうか?

最も有力な説は、1880年頃スイスの時計メーカーがドイツ皇帝ヴィルヘルム1世の命令で海軍用に2000本製作したというものです。
なぜ軍が時計を必要としたかというと、大きな軍隊で「正確な時間」を共有することは緻密な戦略の実行に欠かせないものだからです。
ポケットから時計を取り出して時間を確認する必要のない腕時計は、軍隊での需要がありました。
ただしこのときの腕時計は実践では使われず、訓練用に製造されたものだったようです。

その後、1899年から1902年までの第2次ボーア戦争で腕時計が活躍します。
四方を狙撃兵に囲まれた状況で胸ポケットから懐中時計を取り出していては、反射光を的に狙撃されるリスクが大きかったからです。
ボーア戦争ではオメガの腕時計を揃えた部隊があり、任務と移動がスムーズにできたという報告がありました。
戦争後にオメガがその事実を宣伝したことで、腕時計は野戦の装備品として欠かせないものだと認識されるようになったのです。

普及のきっかけは「第一次世界大戦」だった

1914年に始まる第一次世界大戦によって、いよいよ腕時計が本格的に普及するようになります。
その普及率は1916年にはヨーロッパのすべての陸軍に採用されるほどでした。
これまでも、戦う時に見やすいこと、敵に見つかりにくいこと、などの利便性から腕時計が重宝されていましたが、それまで以上に必要とされたのには第一次世界大戦ならではの理由がありました。

第一次世界大戦は敵の銃撃から身を守る空堀「塹壕」を多用した戦争でした。そして手榴弾が多用されたとともに世界で初めて毒ガスが使われた戦争です。
手榴弾で攻撃するときに、投げてから爆発するまでの時間を知る必要があります。一斉に攻撃する際には全員が時間を正確に知る必要もありました。
また、毒ガス攻撃も時間を合わせて作戦決行するため、すぐに正確な時間を把握できる時計が必要です。

他にも、第一次世界大戦では大量の弾丸を一斉に撃って敵の通過や接近を阻止する「弾幕」も多用されました。
前進する歩兵を守って弾幕をはるには、歩兵との位置関係を把握し距離を保つために時間を頼りとしていました。
正確に時間がわからなければ一斉援護射撃を安全に行えないし、進路の確保もおぼつかないのです。

こうしたことから、正確にタイミングをはかる時計は兵士の必須アイテムになりました。
そんな状況で「ポケットから懐中時計を取り出し→時間を確認し→ポケットにしまう」という悠長なことはしていられません。
腕につけると邪魔にならず、時間を確認する位置にも困らない腕時計。チラッと腕を見るだけで正確に時間を把握できる便利さは過酷な戦場で必要とされたのです。

ちなみにこの頃の腕時計は現在のスタイルとは異なり、懐中時計をレザーのバンドで腕に巻けるように工夫した時計、といった形でした。

戦場での腕時計の試練

腕時計は兵士たちに支持されましたが、この頃はまだ好意的な意見ばかりではありません。戦場で使うには解決しなければならない欠点があったからです。
塹壕の中の兵士からは、時計のガラスの風防が割れて破片で大ケガをする、寒暖差でケースが伸び縮みして気づかないうちにガラスが外れる、という声があがりました。
プロテクター用のカバーをつけたらいちいちカバーを開けなくては文字盤が見えない。格子状に切り抜いたカバーをつけてみたが見やすさに問題がある。
割れても鋭利な破片にならないセルロイド・ガラスを試したものの、セルロイドも寒暖差で伸び縮みして外れるし塹壕の中で使用するローソクに引火する……
軍から要請を受けた時計メーカーの試行錯誤で、腕時計は進化していきます。


こうして第一次世界大戦で活躍した腕時計は「トレンチ・ウォッチ」として知られるようになります。
トレンチとは「塹壕」の意味で、塹壕戦で活躍したことからトレンチ・ウォッチと呼ばれるようになったと言われています。
懐中時計の面影を色濃く残したアンティークウォッチとして、現在でも根強いファンがいる時計です。
ちなみにトレンチ・コートのトレンチも同じ意味です。

世界に広まった実用的な腕時計

戦場で広まった腕時計は、軍人たちが社会に戻ってから開も使うようになったことで、徐々に一般にも普及しました。
第一次大戦によって進化した腕時計は、戦後になると実用性がさらに高まります。
1926年にはフォルテスが世界初の自動巻き腕時計を発し、手でゼンマイを巻かなくても着用しているだけでゼンマイが巻かれる画期的な腕時計が誕生しました。
同じく1926年、ロレックスが初の防水腕時計「オイスター」を開発。1931年には現在の自動巻き腕時計の原点「オイスター パーペチュアル」が発表されました。


1931年にはジャガールクルトから世界初のスポーツ用腕時計が、パテックフィリップからは現在の丸形腕時計のスタンダードと言われる「カラトラバ」が誕生しました。
現在では当たり前の防水機能や見慣れたデザインは第一次世界大戦後に完成していったのです。
パイロットや軍人など、限られた人をメインに作られていた腕時計は、より多くの人に使われるようになりました。

まとめ

現在では当たり前のように使われている腕時計は、軍隊で必要とされ、戦場で進化していったという歴史がありました。
軍隊生まれ戦場育ちの腕時計は、一般に普及してより便利さを増し、よりカジュアルに使用されるようになります。
私たちの日常に寄り添う腕時計は、ドラマティックで意外な過去を持っていたんですね。
そんな腕時計の過去に思いをはせると、愛用している時計がますます大切なものになっていくかもしれません。

参考資料:「新・軍用時計」今井今朝春著


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