はじめに
世界には伝統的な手作業でトゥールビヨンをはじめとする複雑な機構を備えた腕時計を作り上げる「神の手を持つ」と呼ばれる職人がいます。緻密な構造の時計を自らデザイン・製造し、自分の名前をブランドとして発表する独立時計師。
企業やメーカーに属さない時計師から構成された、スイスに拠点を置くAHCI「独立時計師アカデミー」という国際的な組織があります。神の手を持つ職人たちが所属し34名の会員がいます。
日本でも独立時計師アカデミーによる受注会が松屋銀座で行われ、パリ、ロンドン、ニューヨーク、香港など世界中で発表されて高い評価、高い人気を獲得しています。
そんな「独立時計師アカデミー」に3人の日本人の独立時計師が所属しています。
今回は日本人独立時計師3人の作品をご紹介したいと思います。
世界的にも“器用”というイメージがある日本人が手作業で作り上げる時計は、一体どんなものでしょうか?
菊野昌宏の和時計改
2013年に独立時計師アカデミーに所属となった菊野昌宏。
1983年に北海道で生まれた菊野昌宏氏は、工作機械もコンピューターも存在しない時代に生み出された歯車に感銘し、手作業にこだわった独自の時計造りを行っています。
西洋時計が「時計に自らの生活を合わせたもの」であるとすると、和時計は「生活に合わせた時計」であったこと、その文化と精神、時間の概念を菊野昌宏氏は世界に発信すべきだと思い制作したそうです。
昔の和時計の多くは15日おきに調整が必要であったため、江戸時代の時計師は自動割駒機構を開発していましたが、菊野氏の和時計改では独自の自動割駒機構を開発。
江戸時代の干支があてられた時と現代の時が同時に表示され、我々に時の文化を思い出させてくれる至高の一品は、年間1本しか生み出すことができません。これ以上のない芸術作品となっています。
また、2017年の「朔望」では月の満ち欠けを示す月齢表示機構を搭載。農業従事者に必要であった季二十四節気という暦を意識し、照明器具が当たり前でない時代に思いを馳せる時計です。
浅岡肇
2015年に独立時計師アカデミーに所属となった浅岡肇(1965年生まれ)は東京藝術大学デザイン科を卒業しグラフィックデザイナーとしても活躍しています。
国産初となるトゥールビヨン(ゼンマイにかかる重力の影響を減らす仕組み)を2009年に発表しています。
HAJIME ASAOKA Tokyo Japanとして自らの名前をブランド化し、デザインからほぼすべての部品製造から組み立てを行っています。
2012年には日本を代表する現代美術家の村上隆とのコラボレーション「Hajime Asaoka × Takashi Murakami TOURBILLON」も発表、2023年にはオークションに出品された時計が3400万円で落札されるなど現代の名工として名を馳せています。
グラフィックデザイナーならではの佇まいが美しくスタイリッシュな「TUNAMI」「KURONO」、またセカンドラインとして「CHRONO TOKYO」「KURONO BUNKYŌ TOKYO」など、数多く発表しています。
2023年3月の新作のトゥールビヨン ノワールは12年の進化を経て、より小さく(37mm)、より薄くよりラグジュアリーになっています。
youtubeで語られたコンセプトによると、針を取り外さずに文字盤を分解できるようになっていて、時計職人がひとつの部品を作業するだけで時計全体を分解する必要がない、という簡素化されたメンテナンスへと浅岡氏の理想へ進化しています。
文字盤は黒く周縁のスチール製チャプターリングのエッジカットが絶妙で、6時にはV字型にリングを突き出ています。トゥールビヨンが見える開口部はブリッジでささえられており、脱進機の音が感じとれるような感動がもたらされる一品となっています。
牧原大造
2019年には牧原大造氏が新たな会員候補となり、2022年に会員となりました。
経歴も非常に稀で高校卒業後、料理人として8年働きのちに時計の専門学校に入学しています。在学中にTV番組の企画で独立時計師フィリップ・デュフォーに出会ったのが独立時計師への道へ進むきっかけとなったそうです。
美しき日本の伝統工芸を体現する牧原大造の時計は「彫金」と「江戸切子」が魅力です。
2018年に発表されたDAIZOH MAKIHARA「菊繋ぎ紋 桜」は文字盤に施された江戸切子とムーブメントに緻密に施された桜のエンブレービング(彫金)の美しさが際立ちます。
江戸切子はミツワ硝子工芸が引き受け、江戸の伝統をじかに伝えています。またデザインから彫金は牧原氏が時計作成とともに自らがおこなっています。これは分業があたりまえの時計業界では非常に珍しいのではないでしょうか。
伝統工芸の有機的なラインがまさに優美という唯一無二の時計を作り出しています。
まとめ
三人がいずれも日本ならでは、日本人特有の個性や伝統を活かした時計づくりをされています。
菊野氏は和時計、浅岡氏は日本人の精密さ、牧原氏は伝統工芸。
デザインから製造まで行う日本人では三人しかいない独立時計師アカデミーに所属する独立時計師の、世界最高峰の技術が詰め込まれた時計に今後も注目です。
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