アクセサリーとしての腕時計

時計豆知識
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はじめに

腕時計のはじまりは、貴族の女性の装身具だといわれています。

時刻を知るために誕生した時計ですが、実用性を追求して発展する一方で、装飾性を重視した時計も数多く製作されました。

今回は、貴族の女性からはじまった、アクセサリーとしての時計に焦点を当ててみたいと思います。

腕時計のはじまり

1500年代頃に懐中時計が誕生し、持ち運びができる時計として使われ始めました。
腕時計は1800年代頃、ヨーロッパの王侯貴族の女性が、懐中時計が付いたブレスレットを身につけたことからはじまりました。

宝石が散りばめられたアクセサリーのような腕時計で、ダイアル(文字盤)も針も小さく、時刻の見やすさよりも装飾性が優先されていました。
オーダーメイドの一点ものを時計師や宝飾商に注文し、ドレスのスタイルに合わせて付け替えていたようです。

天才時計師ブレゲとマリー・アントワネット

1700年代頃、時代の最先端は懐中時計で、王侯貴族だけが所有できる高価な嗜好品でした。
ブレゲの創業者であるアブラアン=ルイ・ブレゲは、現在の時計に用いられている機構の約70%を発明・改良したほか、数々の装飾技法も生み出し、天才時計師と呼ばれました。


現代の高級腕時計に搭載されている“世界三大複雑機構”(「パーペチュアル(永久)カレンダー」「トゥールビヨン」「ミニッツリピーター」(※1)の基礎を開発したのもブレゲです。

ブレゲの顧客のひとりだったフランス王妃マリー・アントワネットは、1783年、「あらゆる技術や複雑機構を備えた最高の時計」を依頼します。
「時間や費用は制限なし」という注文でした。


長い年月をかけ、最新技術や複雑機構(開発前の「トゥールビヨン」は除く)が組み込まれた懐中時計が製作されましたが、完成したのは注文から44年後のことでした。
フランス革命裁判で処刑されたマリー・アントワネットの死から34年、ブレゲ自身の死から4年が経過していました。
ブレゲの弟子たちが製作を受け継ぎ、完成させた「ブレゲ・No.160(通称:マリー・アントワネット)」は、ゴールド製の大型懐中時計で、世界最高の複雑時計(※2)といわれています。

(※1)「パーペチュアル(永久)カレンダー」…4年に一度のうるう年も自動調節できるカレンダー機構。ブレゲが発明。

「トゥールビヨン」…重力の影響によって生じる時計の誤差を補正・調節する機構。ブレゲが発明。

「ミニッツリピーター」…音で時刻を知らせる機構。ブレゲが改良。

 (※2)時計の中に高度な技術が組み込まれている時計のこと。 

世界初の腕時計

ブレゲは1810年に、ナポレオンの妹でナポリ王妃であるカロリーヌ・ミュラからブレスレットタイプの時計の注文を受けました。
そこで製作されたのが「ブレゲ・No.2639」です。


このブレスレット・ウォッチが、ブレゲにとって初の腕時計であり、時計の歴史上「世界で初めての腕時計」にもなりました。 現在のレディスモデルの原型ともいえます。


女性たちは腕時計を楽しむようになりましたが、アクセサリーと同じ扱いで男性には広まらず、懐中時計の方が実用的で男性らしいという風潮が続きました。
男性用腕時計のはじまりは、1904年のカルティエ「サントス」の誕生で、約90年後のことになります。 

アクセサリーとジュエリーの違い

1800年代後半から、腕時計は様々な時計メーカーや宝飾商から製品化されるようになります。
装飾性を重視した女性用の宝飾腕時計(ジュエリー・ウォッチ)も販売されるようになりました。

ここで、「アクセサリー」と「ジュエリー」の違いを確認してみましょう。
同じような意味合いで使用されることもありますが、ファッション用語では、アクセサリーとジュエリーは別のものを指します。


「アクセサリー」は装身具の総称で、ネックレスやピアス、ブレスレットや指輪など身につけるもの全般をいいます。素材に制限はありません。

「ジュエリー」は「アクセサリー」の中で、貴金属(ゴールドやプラチナなど)や、宝石(ダイヤモンドやルビーなど)のような希少価値の高い、限定された素材を使用したものを指します。

ジュエリー・ウォッチといっても幅広く、ダイヤモンド・ウォッチなどゴージャスなタイプもあれば、ダイアル(文字盤)やインデックスにさりげなく宝石が飾られたシンプルなモデルもあります。

アクセサリーとしての腕時計の変化

時計の歴史の中で、装飾性や形状の変化などに目を向けてみると、時代によって特徴が出てきます。
ここからは、アクセサリーとしてはじまったレディスモデルと、レディスモデルにかかわる時計の変化についてご紹介していきたいと思います。

<1700年代>

◆(1783年)マリー・アントワネットがブレゲに懐中時計の製作を依頼(完成は1827年)
▶「ブレゲ・No.160 マリー・アントワネット」
◎時代の最先端は懐中時計

<1800~1910年代>

◆(1810年)ナポリ王妃がブレゲにブレスレットタイプの時計の製作を依頼=世界初の腕時計(機械式)が誕生
▶「ブレゲ・No.2639」

◆(1800年代後半~)装身具としてブレスレット・ウォッチの製品化が始まる→特注品から既製品での購入が可能に
▶ゴールドスミス&シルバースミス社、グリュエンなど

<1910年代>

◆ウォッチケースに新しい形状が登場→従来の懐中時計タイプ(丸型)から、スクエア(正方形)やレクタンギュラー(長方形)、オーバル(楕円形)などバリエーションが増える
▶J・C・ヴィッカリー社、ゴールドスミス&シルバースミス社など

<1920年代>

◆宝飾腕時計(ジュエリー・ウォッチ)が登場→豪華なアクセサリーとして、凝ったデザイン・繊細で美しい腕時計が広まる
▶ロンジン、ティファニーなど

◆アール・デコ(※1)のデザインに影響を受けた腕時計が流行→それまでのアール・ヌーボー(曲線が主体)様式とは対照的に
▶エルジン「パリジェンヌ」など

◆バンド素材が変化→初期の金属ブレスレットから、レザー(革)やブラックシルクのリボン、コード・ストラップなどが流行
▶カルティエなど

◆女性のためにデザインされた華奢なモデルが人気→第一次世界大戦(1914‐18)後の社会進出をした女性たちの間で腕時計が必需品に
▶ジャガー・ルクルト、カルティエなど

(※1)アール・デコ…1920~30年代にかけて、ヨーロッパとアメリカで流行した装飾美術の様式。直線と立体・幾何学的なデザインが特徴。

<1930年代>

◆アール・デコ調の人気続く→レクタンギュラー(長方形)の腕時計を大量生産
▶エルジン「レディ・エルジン」

◆流線形デザインが流行→手首にフィットするようケースもムーブメントも曲げた腕時計が登場
▶グリュエン「カーベックス」など
◎時計の主流は懐中時計から腕時計に

<1940年代>

◆(1940年代初め~)アーチ状やドーム状の分厚い風防(ガラス)が人気→女性のボーイッシュなファッションが流行、腕時計のデザインにも変化が
▶ブライトリング、オメガなど

<1950年代>

◆世界最小の機械式ムーブメントを搭載した女性用腕時計が誕生
▶ブランパン「レディバード」

◆斬新なデザイン・ウォッチの登場→ミステリー・ダイアル(※2)が人気に
▶アーネスト・ボレル「カクテル」、ジュベニア「ミステール」「プラネト」など

◆絢爛豪華な宝飾腕時計が発売→ダイヤモンドをふんだんに使用したダイヤモンド・ウォッチ
▶オメガ

(※2)機械式時計で通常の針を使わずに、時刻を表示するダイアル(文字盤)のこと。 

<1960年代>

◆特徴的なデザインの腕時計が誕生→日時計モチーフや金貨をダイアル(文字盤)に使用するなど個性的な腕時計が製作される
▶モバード「ミュージアム・ウォッチ」、コルム「コイン・ウォッチ」など

◆革新的な宝飾腕時計が発売→ダイアル(文字盤)上をダイヤモンドが動き回るアイデア
▶ショパール「ハッピー・ダイヤモンド」
◎(1969年)世界初のクォーツ(電池式)時計、セイコー「アストロン」が発売

〈参考文献:「-腕の上のデザイン- 広告の中の腕時計」株式会社ワールドフォトプレス(2010)〉

機械式腕時計の衰退と復活

1970年代に入ると安価で精度の高いクォーツ(電池式)時計が大量生産されるようになり、従来の機械式時計の需要は大きく落ち込みます。(クォーツ・ショックと呼ばれる)


しかし、1980~90年代には、手作業の技術への評価や、工芸品・美術品としての価値が認められるようになり、伝統的な機械式時計は復活します。
高い技術を持つ一部の時計メーカーや時計職人にしか製造ができない複雑時計や、装飾性を追求したジュエリー・ウォッチなど、高級な機械式腕時計が再び製作されるようになりました。


2000年代には、自社ムーブメントを開発するメーカーが増えていきます。
その中で、高級機械式時計のムーブメントの製造から組立・仕上げまでを一貫して自社で行うメーカーは「マニュファクチュール」と呼ばれ、世界中から高く評価されています。
現在では、普及したクォーツ時計とともに、衰退の危機から復活した機械式時計も多くの人に愛されています。
時計メーカーや宝飾ブランドの高級腕時計だけでなく、アパレルブランドからリーズナブルなファッションウォッチが販売されるなど、年齢・性別問わずアクセサリーとして腕時計を楽しめる時代になりました。

まとめ

今回、ご紹介したのは一部分ですが、世界情勢や、芸術・文化の移り変わりが、腕時計の発展にも影響していることが分かります。
実用品としてだけでなく、身につけたり収集したり、腕時計を楽しむが人いるのはいつの時代も変わっていません。
ぜひ、アクセサリーとしての時計もお楽しみください。


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