はじめに
アンティーク時計の魅力を語るうえで、よく耳にする美術様式アール・デコ。
実は現代の時計にもこの時代のデザインが引き継がれ続けています。
今回はそんなアール・デコとよく混同されるアール・ヌーヴォーとともに解説していきたいと思います。この様式を知ることで、アンティーク時計を選ぶときに参考にしてみてください。現代の時計も一味違って見えてくるかもしれません。
アール・ヌーヴォーとは
アール・ヌーヴォーとは、アール・デコ（1910〜1930）時代の少し前、1890〜1910ごろ、壁紙などで有名なイギリスの画家ウィリアムモリスらが設立したアート・アンド・クラフツ運動が発端となった、植物や花などの有機的なラインやエモーショナルな装飾が特徴の芸術様式です。
ルネ・ラリックのガラス工芸が有名で、絵画だけでなく工芸品、建築、グラフィックなどの多岐の分野にわたりました。
時には過剰とされる装飾が世紀末の退廃的なデザインとされ、1960年代にみなおされリバイバルがおこっています。画家でありイラストレーターであるミュシャは今なお人気が高いですね。
（写真『胸元飾り《トンボの精》』（1897～1898年頃）カルースト・グルベンキアン美術館蔵／画像元：アンスプラッシュ）
アール・デコとは
第一次世界大戦を機に、幾何学模様を主としたモダンかつ低コストのデザインが普及します。
アール・ヌーヴォーが植物の有機的なデザインであったのに対し、アール・デコは機械を思わせる装飾を廃したもので、機能的かつ実用的なデザインへと移り変わっていきました。
また、アール・ヌーヴォーがパトロンをはじめとする富裕層に流行したのに対し、アール・デコは大衆に大量に消費された装飾デザインで、世界中に広く一般に浸透しました。
ジャンルもグラフィック、タイポグラフィ、建築、ファッションなど多岐に及び、表層的、表面的、直線的デザインが取り入れられました。1925年、アール・デコの名前の由来となったパリ国際装飾美術・産業美術博覧会(Exposition des Arts Deoratifs et Industriels)でのル・コルビジェの設計したパビリオンが発端となり、なかでもNYの建築、摩天楼にアール・デコ様式は花開きました。
（写真：クライスラービルディング：アメリカ、マンハッタン／画像元：アンスプラッシュ）
今も息づくアール・デコのデザイン
カルティエは、いち早くエレガントなアール・ヌーヴォーから脱却し、近代的な直線的なアール・デコ様式の「タンク」を1914年に発表しました。
それまで時計は懐中時計のようにひっかからないように設計されたラウンド型（丸）が一般的でしたが、タンクのスクエア型は第一次世界大戦を終戦へと導いた戦車のカタチからインスパイアされたと言われています。
また、時間を刻む目盛りに線路のようなデザインのレールウェイトラックを採用しています。時間を分かりやすくあらわした機能的なデザインはアール・デコの特徴を物語っています。色彩もメリハリのある配色をされていることが多くなっています。
カルティエタンクの修理実績はコチラ
スクエアやレクタンギュラー（長方形）、トノー型といった様々なケースのデザインが出てきたのもアール・デコの特徴で新しい近代的な時代の幕開けを感じさせます。
サントスガルべの修理実績はコチラ
カルティエ公式HP：歴史より
トノー リストウォッチ（カルティエ パリ、1915年
ゴールド、サファイア、レザーストラップ：所有者 : ギリシャ国王コンスタンティノス1世（1868-1923年））
王族にも愛されたアール・デコ様式のトノー型（樽型）のケース。こちらは「カルティエ プリヴェ トノー ウォッチ」へデザインが引き継がれています。
ヴァシュロン・コンスタンタンの「ヒストリーク・アメリカン1921」は四角いケースにラウンドの文字盤が45°に傾けてセットされ、自動車のハンドルを握ったままでも手首をひねらずに時刻が読めるデザインです。その名の通り1921年にアメリカの自動車愛好家に向けて発売されました。レイルウェイトラックが採用されているおかげで、45度に傾けても時刻が読み取りやすいデザインです。「狂騒の20年代」とよばれたアメリカの画期溢れる空気が思い起こされる時計です。
まとめ
今では見慣れたタンク型の時計もアール・デコ様式の時代に生まれたことがわかりました。
アール・デコ様式のデザインは建築や様々な箇所に採用されていますので、日常のどこにでも見つけることができそうですよね。
アンティーク時計を選ぶときも、これはアール・ヌーヴォーのデザインだろうか？アール・デコのデザインだろうか？想像を巡らせてみて楽しんでみてはいかがでしょうか。
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